染められたオタク女子【彼女がチャラ男にあった日(1)】

4月
 わたし中峰聖菜(なかみね せいな)はこの春から上京して東京の大学に進学します。一人暮らしは結構心配だけど、田舎と違って話が合う人もきっとたくさんいるだろうし楽しみです。なんとかやっていける…よね?

 大学初日各サークルの激しい新歓活動にちょっとというかかなり引き気味。やっぱ都会の人ってエネルギッシュ…すごいけど、ちょっとだけ怖いかな。そう思ってわたしは大学の正門の方は避けて裏門の方から出ようとしました。そこで少し小さなサークルが地味に勧誘しているのを見つけました。
『ゲーム研究会』『エフジア好きな人集まれ』っとプリントアウトした紙をもって数人の男の人が立っています。『エフジア』は最近流行っているスマホのオンラインゲームでわたしも好きなのですが田舎にはほとんどプレイしている人がいないのでもっぱら一人でネットの情報を見ながらプレイしていました。SNSもなんだか怖いし…。でもせっかく大学生になって都会にでてきたんだから勇気を出すときかもしれません。

「あ、あのー、その、ゲーム研究会って…」
 もう緊張して舌が思うように回りません。

「ひゃぁいっ、え、あのゲーム研究会はですね…」
 でも話しかけた相手の方が同じぐらい緊張して噛み噛みだったので思わずお互いに目を見合わせて少しコミュ障同士のシンパシーを感じます。そしてゲーム研究会が基本的には放課後部室でエフジアをプレイするだけのゆるいサークルで夏と冬のイベントに考察系の同人誌を持っていっているとしってここならわたしでもいけるかもと思ってしまいます。

 そしてそのままなんとなくなし崩し的にゲーム研究会、通称『ゲー研』の新歓コンパに参加することになりました。

「えっと、あの、その…わたし、中峰聖菜といいます。えっと…英文科の1年生です。その…今回は誘ってくださってありがとうござます。…田舎から上京したばかりで、わからないこととか困ってることがおおくて、あの…その…もしかしたら先輩がたにご迷惑をかけちゃうかもしれないんですが…よろしくお願いします。

 あの…わたしの地元では…同年代の人がほとんどいなかったので、こんな風にリアルでゲームができるお友達を作るのが夢だったんです。わたしもゲーム、スマホゲームですけど特にFGIAが好きで、えっと…こんなにたくさんのゲーム研究会の先輩たちと繋がれるなんて夢みたいです。高校時代とかはもう、好きなキャラをガチャで引き当てるためにアルバイトしたりしてですね。でもあんまりわかってくれる人がいなくて、だから本当に嬉しいです。特に好きなキャラはギルさんで、でもでも周りでわかってくれる人とかあんまりいなくて、今日は新歓ブースで声をかけてくださったときから話が弾んじゃって、もしかしたらわたし興奮し過ぎでちょっと暴走気味かもしれないんですけど、嬉しくてできれば今後もずっとゲーム研究会で仲良くしていただければ本当に嬉しいなって思います。
…あ、あのすみません。ちょっと話し過ぎちゃいました。こんなに同じ趣味の人と出会うことが今まで出なかったから興奮しちゃって」

 顔から火が出るほどというのはこういう状況でしょうか。緊張しすぎて自分が何を言っているのかもわかりません。なんだか胸がドキドキして緊張のあまりふわふわとした気分になってしまいます。っというのも来てみてわかったのですが、ゲー研には女性の部員がわたししかいないのです。だからかゲー研のなかでも部長さんたちのような一部の部員しか話しかけて来ません。でも、わたしも何を話していいのかわからないのでおあいこです…たぶん。

 でもお互いそんなコミュ障な感じでも飲み会の席でスマホをあけてゲームしても大丈夫なゆるさは救いです。ゲーム用のゲー研のチャットで挨拶したらリアルよりもたくさんの人達が挨拶してくれました。

 ちょっとぎこちないけれど、もう少しだけこのサークルで頑張ってみようかなと思いました。

 5月 

 その日、わたしは講義が終わってゲー研の部室に向かっていました。高校と違って制服のない大学では服を選ぶのはいつも大変で、それでも大学生らしくしなきゃと今日は薄手の白のワンピです。高校時代は美術部で喪女どうしでつるんでいて暗めの地味な服ばかり着ていたんですが、東京の大学に進学したので少しは自分を変えなきゃと一大決心して昔の服を全部捨てて東京で買い直しました。
そんな風にちょっとした大学デビューのつもりだったんですが、結局新歓の時期の大手サークルの強引な勧誘に引いてしまってゲー研に入ってしまったあたり我ながら変わりきれてないなとため息です。

「キミ、カワイイね」
そんな風にいきなり後ろから声をかけられたのです。振り向くとそこにはいかにもモデル体型なイケメンの男の人が何人か立っていました。

「え、わたしですか?」
そう思わず聞き返します。わたしの人生でいきなりこんな風に褒められたことがなかったので心のなかで混乱してどうしていいかわからなくなってしまいます。

「モチ!キミ以外に誰がいるのさ」
そう言っていきなり距離を詰められてしまいます。隣に立ってわたしよりもだいぶ高い身長から見下ろしてきます。先輩…なのかな?

「オレらさ、これから飲みに行こうって話てたんだけどさ。女子があんまり来られないみたいなんだよ。男ばっかじゃ寂しいんでキミみたいな可愛い女の子を誘えないかなって話てたんだ。あ、もちろん飲み代とか足代は全部オレらが出すから気にしなくていいぜ」

そう、声をかけてくれた男の人がいいます。髪を明るく染めて、背が高くて鼻筋が通っていてまるで雑誌から抜け出てきたみたいです。

「そうそう、もてないオレらを助けると思って来てくれたらマジ嬉しいんだ」

反対側に最初の男の人とは別のもっとガッチリとして筋肉質な見るからにスポーツマンの男の人が立ちます。他にいたあとの男の人達もまるで行く手を遮るようにいつの間にかわたしの前に立っています。みんな最新のファッションできめていて、びっくりするぐらいカッコイイです。

わたしが密かにした大学デビューがやっと人に認められたことと今までの人生で一度もなかったくらいハンサムな人たちに囲まれたことでわたしは少し調子に乗ってしまっていました。

「す、すみません、あの…わたしこれからサークルがありますから…」
ドキドキしながらそう言います。

「あちゃー、振られちゃったかー」
男の人達が爆笑します。

「キミ1年生でしょ?この時期は新歓期で人の出入りが激しいから1回くらい休んだって大丈夫だよ」
誰かがそう言って。みんなが口々にそうだそうだと肯定します。『でも…』と言いかけたわたしの言葉を遮るように最初に茶髪の男性がいいます。

「サークルには新入生が他にもいるけど、オレらにはキミしかいないんだ」
そうわたしの肩を掴んでまっすぐ目を見て言われます。最初に一瞬肩を抱き寄せられたときはビクンと体を震わせてしまいましたが、まるで少女漫画みたいなシチュエーションに胸がドキドキしてしまったのも否定できません。その茶髪の先輩の服からはふわりといい香りがします。肩を掴まれると男の人の大きな手を意識してしまいます。

「えっと…わ、わかりました。行きます」
拒絶するはずだったのにわたしの口から出てきた言葉は真反対でした。

「おー!」「よく言った!」「こんなカワイイ子と飲めるとか最高すぎんだろ!」
などと肯定的な言葉が投げかけられて戸惑ってしまう。今までの人生で言われたカワイイを全部足したよりもたくさん既に言われてしまった気がします。

そのままその先輩達は大学の入口でタクシーを呼び止めると2台に分譲して乗り込みました。タクシーはいつもゲー研が飲み会をする駅の方とは逆方向に向かいます。まだこっちに引っ越してきたばかりのわたしはどこに向かっているのか少し不安でした。

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