オークオークファンタジー:プロローグ:そしてオークは支配遺伝子というチートを手に入れた

それはある秋の昼下がりだった。まだ俺が愚かでバカなオークだった頃。いつもの日常、ママンが昼飯ができたって兄弟たちを呼んだ直後だった。いつものように遊んでいた兄弟たちは全速力で家に戻った。俺の家では飯は来た順に選ぶから早く行けばたくさん食えるのだ。一生懸命走ろうとしてボテボテ走った俺は弟に足をかけられた。でもバカな俺は転んだことに気がつかずに倒れたまま数分間足を動かし続けていた。

 先に行って昼飯を食べ終わった弟が現れてブッヒッヒッヒと笑って初めて俺は立ち上がらねばならないことに気がついたのだ。けれどもその次の瞬間俺のことをバカにしていた弟の首が中を飛んだ。

 馬の蹄の音、いななき。人間の怒号。集落の中心で俺はショックのあまり棒立ちだった。目の前にはさっきまで俺のことをバカにしていた弟の首が転がっていて、人間共は一軒一軒家々を回って片っ端から村のみんなを殺して回っていた。虐殺の真ん中で、俺は恐怖のあまり膝を震わせて失禁しながらぽかんと突っ立っていた。

 すこしして人間たちが集落の中心に集まり始めた。中心にいるのは黒髪の女騎士だった。そいつは俺を見ると行った。

 「バカなやつだな、まだ残ってたのか。武器ももたずに小便垂らして。オークのくせに筋肉もないし、小便たらしのお前みたいなのは放っておいても野垂れ死にそうだな。クックック」

 そう心底楽しそうにわらってそいつは目の前に転がっていた弟の頭を踏みつけた。金属製のブーツに踏まれて弟の頭はグチャリと潰れた。それを見て汚いと言う顔をしてその人間の女は言った。

「おい、そこのおまえ。この汚れをその汚らわしい腰布で拭いて磨き上げろ。そしたら命は助けてやる」

 はじめ誰に言っているのかわからなかったから無視していた。そしたら、突然剣の鞘でぶん殴られた。ゆっくりとまとっていた腰布を下ろすとそれでその女騎士のブーツを拭いた。弟の脳症にまみれたブーツを付加された。

「ほんとにオークってやつは薄のろで奴隷としても使えない奴らだな。殺したら殺したで鎧が汚れてしまうし、ゴキブリ以下の害虫どもだ」

 そう女騎士が言った。当時俺はバカの薄のろだったから女騎士の言った言葉の意味はよくわからなかったが、磨き終わると蹴り飛ばされて消え失せろと怒鳴られた。必死で駆け出す俺の後ろで人間たちが悪性している声が聞こえた。

 俺はよくわからないまま走り続けた。走り続けた。そして走るだけ走ったあとで洞窟を見つけてそこに隠れることにした。そしてその奥にできるだけ潜り込んでいった。松明を作ることすら思いつかなかった薄のろな俺は無我夢中で奥深くに分け入っていった。随分深いらしいその洞窟を匂いと手探りだけで潜っていくと狭い小部屋に突き当たった。

 その真ん中あたりにはよくわからないが箱状の四角いくぼみがあった。俺はここに隠れていればあの恐ろしい人間たちも見つけられないだろうと思ってそこに横たわった。しかし、その直後蓋らしきものが上からおりてきてそのまま俺は意識を失った。

 一時間後、目を覚ました俺は別人のようだった。あの箱は滅亡した古代文明の学習装置であり、それによって強制的に脳を改造された俺はかつての薄のろオークとはもはや言えない存在になっていた。

 俺の学んだところによれば、この世界にはかつて高度に発達した『科学技術文明』というものが存在していたらしい。しかし当時の為政者たちは民衆を思うように操る技術を競い合い、そして洗脳マシーンをライバル同士に使い合って自滅していった。自分たちの最高の洗脳マシーンの最初の犠牲者はそれを作り上げた科学者たちだった。そして洗脳された科学者たちを中心とするグループ同士でライバルたちをハメて洗脳していった。絶対服従で考えることを忘れていった知識階級。その頂点に経った男は些細な事故で死んでしまった。

 しかし服従することになれきっていた彼以外の全人類は文明を維持することができず徐々に衰退し科学技術を失っていった。世代を追うごとに迷信と盲信がはびこり、人々は徐々にその文明を自ら破壊していった。いまいる世界の知的生命体はオークからエルフに至るまですべて滅んだ科学技術文明の人間たちの末裔だった。そして彼ら全てはかつて全能を極めた一なる支配者によって植え付けられた服従遺伝子を継承している。

 俺は電気をつける。洞窟に見えたここは太古の研究所だったのだ。そしてこここそがかつて全世界を統べた一なる支配者の最大の拠点だった。非常時のために念入りに隠されたそこに俺は偶然迷い込んでしまったのだ。

 さらに奇跡的なことに俺がはいりこんだ箱上のものは一なる支配者が死後彼の記憶と遺伝子を後代に引き継ぐために用意した医療用ポットだったのだ。数万年を経て奇跡的に稼働したそこに天文学的確率で俺は入り込んだのだ。そしてかつての一なる支配者の知識と支配者の遺伝子を俺は手に入れた。

 そしてこの世界を理解した俺を襲ったのは猛烈な怒りと欲情だった。目の前で弟を、家族を、集落のみんなを殺されたことに対する怒り。そして失われたオークの血族を絶やしてはならないという本能からくる欲求。特にあの女騎士、弟を殺し、その生首を足蹴にし、あまつさえその脳症を俺の腰布で拭き取らせて爆笑した非道な騎士だけは絶対に許せない。あいつは絶対に俺の子を生ませてやる。殺された家族の数と同じだけ孕ませてやる。

 俺はギンギンに勃起したチンポをこすりながらあかあかと電気によって照らされた研究所の中を物色した。

 こうしてチートを手に入れた俺、イラマティオス・ティムポーの物語が始まった。  チートを手に入れた俺は考える。どうすれば殺された弟たちの無念をはらせるか。どうしたらあの憎い女騎士に屈辱を与えてあらませることができるか。古代文明の一なる支配者によって残されたポッドによって覚醒した俺にはかつての薄のろオークではなかった。

 すぐに標的は定まる。俺の集落に一番近い人間の村だ。そこからはじめなければいけない。けれどもオークの中でも運動神経の鈍い俺が突然押しかけていったとしてもすぐに八つ裂きにされるだろう。そこで俺は一計を案じた。

 まず集落跡にもどり必要な材料をとってくる。そして研究所の機材でクッキーを焼くことにした。砂糖とシナモンが大量に入ったクッキーだ。そしてその焼きたての香ばしい匂いの漂うクッキーに向けてジョロロロロロロっと思いっきりションベンする。小便の匂いが部屋全体に漂った。もちろんそれだけで終わらせない。最後にそれぞれのクッキーにたっぷりとハチミツをかけてもう一度焼き直す。

 冷えて香ばしい匂いがするクッキーが出来上がった。もちろん俺は小便入りクッキーなんて食べない。見た目には甘い香りのする黄金色の焼き菓子だ。それをバスケットの中にいかにもという感じで並べる。

 翌朝、俺はそれを持って人間の村を訪れた。村のはずれでは案の定少年少女たちが遊んでいた。騎士たちに影響されたのかオーク狩りごっこなる悪趣味な遊びをしている。

 ちなみにオークの集落が人畜無害だったわけではない。狩猟採集生活を基盤とするオークは食料が足りなくなると頻繁に人里を襲っていた。ついでに女をレイプしたりしていたのも否定できない。しかしもちろんそんなことは俺にはどうでもいいことだ。人間共に復讐する、それが一番大切なことなのだ。

 茂みの中から人間のガキ達を観察する。5歳ぐらいから12歳ぐらいのガキ共が6人ぐらいだ。男女比は半々くらいだろうか。粗野な村人の子どもたちらしく日にやけてはいるが幼い顔立ちは明らかだった。

 彼らが遊び疲れて座りこんだのを見計らって俺はわざとがさごそ隠れていた茂みから音を立てて身を引いた。残したのは小便入りのクッキーだ。すぐに不審に思ったガキたちがクッキーを発見する。彼らはどうやらそれを食べるかどうか話し合っているようだった。

 もし昨日俺が知ったことが真実なら一なる支配者の持っていた支配遺伝子を継承した俺の体液を摂取したことによってガキ共の中にある服従遺伝子が活性化するはずだ。

 「変なもの食べちゃいけないんだよー」

 少女が言う。

 「変なものじゃねーよ。おやつだろ、アケ。姉ちゃんが持ってきてくれたんだって」

 「でもマキのおねえちゃんいないじゃない」

 「もうボクがまんできないよ〜」

 「ああ、ココ。食べちゃダメ」

 喋っているうちにガキのうちの一人が我慢できずにクッキーを口に運ぶ。当然だ。そのためにシナモン強めで風味よく焼き上げたのだから。

 そして一人が食べ始めると他のガキ共も自分の分を食いっぱぐれまいと次々バスケットに手を伸ばし、ものの数分でそれを空にする。俺はバスケットが空になったのを確認すると物陰から声をかける。

「おいガキ共、逃げるな。声を上げるな、フフフ」

 そしてゆっくりと顔を出す。普通の人間よりふた周りは大きな緑色の肌のオークが現れれば普通のガキ共なら一目散に逃げ出すだろう。恐怖にすくんで逃げ出せなくともピーピー泣き出すだろう。

 だが、俺は勝利を確信した。ガキ共は俺の姿を見ても動かなかった。恐怖のあまり何人かは失禁している。だが、ガキ共の口はパクパクするだけで悲鳴は出そうとしても出せないのだ。全能たる一なる支配者の支配遺伝子の前に人間共の服従遺伝子が屈服したのだ。

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