揺れる心!アイツに焦れる体!(1)

七月

 結婚式の直後、普通ならきっと幸福の絶頂の時期だと思う。つい半年前までの私ならやっぱり幸せだったと思う。それなのに…この満たされない気持ちは何なのだろうか…。

 帰宅途中で思わずため息が出てしまう。彼に満足していないわけではない。いい人だし、地味でキツめの私を受け入れてくれる人は彼だけだと思う。

それなのに…たった一度の出会いが私を変えてしまった。自分の手を見る。あの男、最低のホスト野郎の口車に乗せられてこの手で彼のものではないものを握ってしまった。汚らわしい。きつい匂いの大量のザーメンが手袋越しにこの指にかかった。思い出すのも嫌なのに…鮮明に思い出してしまうあの男の汚らわしい熱。熱かった…。

 忘れるために彼のモノをこの手で扱いたというのに全然忘れられなかった。それどころか大きさも色も匂いも熱さえも違う彼のものを見て、失望してしまう最低の私がいる。私の手にすっぽりと収まってしまう彼のモノ。扱き上げてもふにゃふにゃして全然違った。アイツの、リョウジのモノは固くて、手に収まりきらなくて…扱き上げるたびにどんどん先走りが溢れてきて手を汚した。まるで私を汚すことに快感を覚えているみたいに。

 そうやって思い出し始めると匂いすら感じる気がしてしまう。ダメなのに…彼のものとはぜんぜん違う香水の匂いすら打ち消しそうなほどのオスの匂いを思い出すとジュンっと感じてしまう。色白な彼のモノとはぜんぜん違うリョウジのグロテスクなほどに赤黒い肉棒。こんな事考えちゃいけないのに…忘れようとすればするほどにさらに思い出してしまう。手袋越しでもやけどしそうなほどに熱くて情熱的な男の部分の触感。

 最低の人格なのにドキドキしてしまう。振り切るように早足で家へ帰る。このまま思い出してしまうと我慢できなくなってしまう。ほてった体がどうしようもなくて辛い。息が荒いのは早足で家に向かっているからなのか、それとも別の理由があるのか。

「ただいま~」

 家の扉を開ける。見慣れた彼の顔。唇を奪う。チュッとキスをする。普通のキス。最初にアイツに会った時、アイツは私の唇を奪い、暴力的に舌を差し込んできさえした。

「ちゅっ…ちゅぷぷ…」

 気がつくと私は舌を差し込んでいた。あの下品な男みたいに

「ちょっと…まって…待って!タンマ!」

 彼が無理やり私を引き剥がす。

「大丈夫?どうしたの?」

 心配してくれている彼の顔を見て我に返ってしまう。私は一体何を…自己嫌悪を覚えながらも体の奥でくすぶる熱い炎が消えない。

「ごめん。ちょっと私おかしかった…。なんでもいいから、忘れて」

 思わず逆レイプしそうになったことを忘れての一言でなかったことにしようとしてしまうことに更に自己嫌悪が深まる。

「う…んん…いいけど、本当に大丈夫?」

 そのあと夕食を食べて、二人で交わり合う。こんなにも火照っているのに彼のモノが私の体に響かない。一番奥に来ない。ほしい場所に当たらない。もっと欲しいのにほんのすこしで終わってしまう。

 最近ずっとそうだ。結婚してから毎日のように体を重ねているのに私の欲しいものは得られない。半年前だったらこんな風にならなかった。性の営みなんてたんなる男女の結びつきの一部でしかなかったのに。今では快楽を求めて体を重ねてしまっている。それもこれもアイツが悪い。たった一晩のことなのに私は自分の体が感じる事ができる快感に気がついてしまった。そして彼では絶対にその望みが敵わないことにも。

「んん…ふぅ」

 トイレの中で割れ目に指を這わせるエッチのあとで彼は疲れて眠ってしまっている。私は更に高ぶってしまった体を持て余してトイレに籠る。今週これも二回目だ。

ニチャ…クチュクチュ…チュッチュ…

 淫らな音が狭いトイレを満たす。彼と住んできたありふれた空間が淫猥な非日常に変わってしまう。さっきまで彼と交わっていたのに、夫で満足できなくて自ら慰める不実な妻。トイレットペーパーホルダーの上に乗っけられたアイツの名詞。

 いかにもな派手な名詞にアイツの名前がプリントされている。それを見るだけでさっきまで抱き合っていた彼との思い出がたった一晩のセックスの思い出によって霞んでしまう。

「はぁぁ…あぁぁ…太い…太かったぁ…んん」

 指二本でグリグリ中まで差し込んでしまう。かき出される愛液、気持ちよくて便座の上で揺れてしまう腰。アイツのモノはこんなレベルじゃなかった。私を無理やり宇土川からこじ開けて暴力的な快感を与えてきた。

「ああ…はぁっ…んふあぁぁ…」

 ますます激しく出し入れしてしまう。私の体さえ傷つけかねないのにそれほど激しくしないとイケないのだ。アイツのせいでいけなくなってしまったのだ。

 パタパタと床に飛び散った私の愛液が落ちる。グリグリと二本の指で奥の部分を内側からかき混ぜる。

「ああっ…はぁぁ!あんっふぁぁぁ!」

 とめどなく流れ出てしまう嬌声。アイツのモノはこんなレベルじゃなかった。もっと奥に、もっと奥にぐりぐりしてきて…

「んんあぁっっ…もっと…もっとぉ…もっと奥にぃ…」

自分でさえも慰められない一番奥の場所が疼く。暴力的に貫く巨大なアイツのオスの部分が幻視される。

「あああっ!ダメっ、ダメっ、ダメなのにぃぃ!」

 アイツにレイプされたあの夜を追体験するかのように口から漏れ出てしまう嬌声。

 洗濯ばさみではだけた乳房を、乳首を挟む。普通なら痛いはずなのに快感に勃起して敏感になったその部分は痛みを快感と誤認してしまう。アイツの貪るような暴力的なセックス。乳首に歯を立てられる感覚。それを求めて自ら洗濯ばさみを使ってしまう最低な自分。でもその自己嫌悪さえもぐちゃぐちゃになった私には気にならない。

「はああ!あんっ!ダメなのにぃぃ…もっとぉ、もっとついてぇぇ!」

 存在しないアイツに懇願してしまう。眼の前にあるのはアイツの名詞だけ。絶対にアイツともう会ってはいけないのに。会ったら、全部終わっちゃうのに。彼との結婚生活も警察官としてのキャリアも、それなのに一番奥の部分が痛いほどに切なく求めてしまう。いない相手と疑似セックスを妄想してしまう。

「はぁぁぁだめぇっ!んっあっ…だめっ!んんん!深い!深すぎりゅうのぉぉ!」

 ズンズンっと見えないアイツの汚らわしい部分が私の一番奥深くをえぐる。快感が高まって私の指が陰核を擦り上げる。

「はぁっ…!あああ!っっだめっ!らめぇぇ!中にぃぃ…んあっぁぁぁ出さないでぇえ!最低男の精子ぃ…出さないでええ!らめっ!らめええなのにいいい!んっはぁぁああああああ!あああぁぁぁぁんん!イッちゃってるううううう」

 便座の上に脱力する。そしてそれと同時に力の抜けた私の女の部分からチュロロロロっと勢いよくオシッコが便座の外に向かって吹き出す。

 息も絶え絶えになりながら立ち上がることも止めることも出来ずに出るに任せる。透明な私の罪の池があっという間に出来上がる。ドキドキしながらけだるいからだとともにそれを見つめる。まだ私の奥の方はヒクヒク求めてしまっている。一旦収まったとしても一番奥の部分は満足できないのだ。

 そして1日もすればほてりが再び前進を支配する。アイツのことなんか考えたくもないのにアイツとアイツの汚らわしい部分しか考えられなくなってしまう。愛液でグチョグチョになった指先。この手で毎日性犯罪を取り締まっているなんて馬鹿みたい。

 私はけだるい体を押して立ち上がる。トイレットペーパーホルダーの上のアイツの名詞を取り上げる。そしてスマホも。

「んふぅぅぅん…」

 絶頂を極めたばかりだと言うのに切なく媚びた吐息が漏れる。アイツとコンタクトとっちゃいけないのに…。

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