悪徳の栄える町で洗脳敗北した女捜査官達ー第4章:特別クラス

 昨日に引き続き星川学園の臨時体育教師として潜入捜査に入る。身分は明かされていないはずだが、フェルミエール自治共和国政府から『特殊な事情』に配慮するように指示した推薦書の威力は抜群で調査しやすかった。

 とは言え、潜入のためのカバークリアランスとは言え教師は教師、私は手を抜くつもりはまったくなかった。

「それでは生徒たちの健康診断の管理は体育教師と看護師で管理しているんだな」

 私は昨日のリー医務捜査官の調査報告書を念頭に置いて学園長に確認する。

「はい、そのとおりです。ただ、我が校は生徒数が2000人近く、しかもほとんどどが我が星の良家の子女だけで構成されている女子学園です。当然健康診断の結果は厳重に管理されています」

 そう答えた学園長のエリアルだった。エリッサとは正反対なフェミニンな女性で、柔らかな物腰や優しげな瞳はまさに女子学園の校長にふさわしく感じた。強いて疑問があるとすれば彼女が名門校の校長にしては若すぎるということだが、昨日からの聞き取りではどんな質問もそつなく対応したことからも疑問の余地が無いほど彼女の能力の高そうだった。

「では、健康診断ゲータの提出先で改ざんが行われる可能性はあると思うか?」
「それは私達の感知できるところではありませんし。一体何を聞きたいんでしょうか?」

 そう、スパッと切り替えされる。まさか生徒の頭の中にヘンタイたちに服従するための人造生物が入っているなどと言うわけにもいかず、今度はこちらが困る。問題はあの寄生生物がどれほど多くの生徒に感染しているか把握できないことなのだ。

「ところで、エリッサ先生、我が校では下着も指導対象になっていることは知っていますか?特に体育教師はその職務上、きちんとしている必要があります。昨日は何分急なことできちんとお知らせできなかったのですが、今日はこちらに用意してありますので着替えていただきますか」

 私が口ごもった瞬間、話題を変えてくるエリアル校長。もともと官僚出身らしく、組織の防衛には手慣れている様子が目に見えた。

 しかし、下着まで指定されるとは聞いていなかったので戸惑う。ここらへんのさじ加減は星によって差があるので私に拒否することは出来ない。

「では、着替えてくる」
 そういって包を受け取る。『ミミクリー』の擬態で作られたスーツとは別に下着を履いておいてよかった。

「はい、お願いします。着替えられたかどうかはこちらでチェックしますのですぐに戻ってきてくださいね」

 そう言われて数分後、私は校長室でスカートをめくって、渡されたレースのフリルの付いたセクシーな下着を着用しているかどうか確認されていた。
「はい、ありがとうございます。写真を数枚取ります」

 そういって小型の機械を向けられる。流石におかしい気もするが相手はこの星川学園の校長であり、潜入捜査の成功は彼女との信頼関係次第とも言えるので強く疑問を呈せない。

 前からと後ろから、様々な角度から写真を撮影される。女同士とは言え羞恥心を抱くほどに、ねっとりとレンズを近づけられ、ブラも指定のものを着ていることを証明するために胸をはだけさせたりさせられる。

「協力ありがとうございます。実は、エリッサ先生には特別クラスの指導もお願いしようと思っています」

 完全に相手のペースだ。こちらの質問に対してはそつなく答えながらも重要な情報は出てこない一方、向こうの指示には次々と従わせられる。何かがおかしい。そう思った瞬間ドキンっと胸が鼓動した気がした。

 おかしいと思った疑問が消えていく。きっと考えすぎだったのだ、まずは教師としてエリアル校長との信頼関係の構築が最優先なのだから。

「特別クラス?」
 総質問する。事前の情報ではそのようなクラスの設定はこの学園に存在しないはずだが…。

「はい、我が校の社会貢献の一環として犯罪者の子供を受け入れてきちんと教育するための短期留学生の受け入れコースを設定しています。宇宙犯罪者たちの荒んだ家庭で育ったことにより心が荒んでしまった生徒たちにきちんとしつけを行って親と同じ犯罪者になることを防ぎたいのです、もう時間ですから続きは教室に向かいながらご説明します」

 そう言ってエリアル校長が立ち上がる。私は学園の概略として銀河警察に知らされていない活動に疑問を覚えながらも彼女についていく。いや、ついていくしかない。

「一時的な預かり制度とは言え、我が校の生徒は生徒、きちんと責任を持って教育する義務がわたし達教師陣にはあります。エリッサ先生にもぜひ、彼らと触れ合って犯罪者の子供という偏見ではなく、一人の生徒と教師として関わり、導いてほしいのです」

 そう言って渡された名簿には宇宙指名手配犯の名字がズラッと並んでいた。大半が性犯罪関連か宇宙マフィアの子どもたちだ。いったい、なんで星川学園のような名門校が彼らのような危ない者たちを受け入れているのか。この間私が取り逃がしたスネークヘッドのボス、ノワールの隠し子と目されるエノクまでいる。

 そこまで考えた時に、ドキンっと胸が鼓動した気がした。今の私は教師であり、子供を偏見で見るなど許されないはずだ。エリアル校長の言う、犯罪者たちの子供にきちんと教育してまっとうな道を用意するというビジョンは素晴らしいものだ。だめだな、捜査官としての偏見が潜入捜査の邪魔になっている。

 エリッサ=シトラスが気が付かないところですでに裏切ったリー医務捜査官によってしこまれたモナークが彼女の思考の中でゆっくりと根を張りつつあった。ガニマタハルにとって都合よくつくられたこの星で疑問に思うべきでない部分を自然と合理化し、疑問を気のせいだと矮小化する。もっと進行すれば疑問に思うことすらなくなるだろう。

「大丈夫ですよ。みんなとてもいい子達ですから」
 そうエリアル校長が柔らかく言って特別クラスと書かれた教室の扉を開ける。中に入ると年齢がバラバラの少年たちの二十人の視線が私に刺さる。

「みなさん、こんにちは。今日も特別クラスに来てくださってありがとうございます。ふふ、普段私が教えさせていただいているこの特別クラスに新しい先生が来ましたよ」

 もともと丁寧な物腰のエリアル校長が一段と丁寧にしゃべり、私にささやく。

「みんな犯罪者の家庭に育って人によってはトラウマがあったりします。ですから丁寧に優しく接してあげるのが大切です。そして敵意がないことを示すためにこうしてください」

 そう言って星川学園というフェルミエールで最も格式高い女子学園の校長は自らスカートを捲りあげ
、下着を犯罪者たちの子どもたちに見せつける。白い清楚な下着だが精緻なレースが薄く、微妙に中が見えてしまっている。

 頭の何処かでおかしいと感じる。だが、ドキンという胸の高鳴りとともに教師という身分を演じなければいけないという常識が刻み込まれる。

「今日からキミたちを導かせていただく臨時体育教師のエリッサだ」

 そして羞恥心を抑え込んでゆっくりとスカートを捲りあげてしまう。さっき着替えさせられたレースの派手な下着があらわになる。ああ、このために下着が指定されているのか。さすが人権意識の高いフェルミエール、私のプライバシーを守ってくれたのだと理解してホッとする。

「今日は新しい担当教師のエリッサ先生とのオリエンテーションですからね、まず皆さんの机を片付けさせていただいて、よろしければ授業のために教室の真ん中に丸く円を書くように並んでくださいませ」

 そういって校長が教卓からなにかのボタンを操作すると教室内の机ががたんと音を立てて沈み込み、椅子だけになる。そして女子学園の中にいる20人ほどの男子達は丸く円を書き、その真中に私とエリアル校長が立つ。

「やはり、皆さんまだ緊張してらっしゃいますから、エリッサ先生にはもうすこし仲良くなるためのコミュニケーションを教えますね。まず、しゃがんでください。その時は大股を開いてショーツを見せることで敵意がないことを男子生徒たちに強調します。俗に蹲踞と呼ばれる体勢です」

 流石に校長というだけあって私の知らない知識もきちんとカバーしているようだ。エリアル校長のマネをして男子学生たちのまえで腰を下ろし、股を開き、ショーツを見せつける。学生とは言え、この体勢だと生徒たちを見上げる形になる。これがいわゆる生徒目線ということなのだろうか。20対の男子のどことなく獣じみた視線が私を見下ろしている。

「ふふ、そして一人ひとりと自己紹介をします、まずはいちばん大切なエノク様から自己紹介しますよ」

 生徒に対して校長が『様』をつかった?いや、そんなはずない。きっと気のせいだ。そんなことより今はよき教師としてひとりひとりの生徒に向き合わないと。歩き辛い体勢で私はのたのたと、一番年若い少年の前に行く。

「有名ですね。宇宙マフィアの中でも最も強大なスネークヘッドの大首領のノワール様のご子息のエノク様です」

「エノク、私が新しい体育教師で特別クラスを教えることになったエリッサだ。よろしく頼む」
「うん、よろしくね」

 上から声が降ってくる。この体勢だと目の前にあるのはエノクの腰になってしまう。だが、私は反応があったことに手応えを感じていた。こうしてきちんと一つ一つコミュニュケーションをとることが生徒の人生を改善することにつながるのだろう。よく見ればまだほとんど子供の顔で、当然体も小さなエノクには可愛らしささえある。こいつがあのスネークヘッドのボスの子供だなどと信じられないほどだ。

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