「大人の」アイドル編4:ペロペロCM撮影

[岩亀征夫]

 二人が帰って数時間後。ぼんやりと彼女たちのことを考えながら私は営業の資料をまとめていた。なんとなく、最近彼女たちの服装の趣味が変わった気がする。露出がさりげなく増えてきている気がする。今日のみかんはTシャツを絞って、へそを出していた。七分丈のジーンズもかなりタイトだったし。もちろんこれから夏だし、最近の高校生ならあんなものかもしれないとも思う。

 まぁ、保険のためにピュアなかわいさを売っている彼女たちの魅力を安売りすべきじゃないと注意すべきかもしれない。もちろん、彼女たちとの信頼関係を損なわないように注意しなければいけないだろうが。

 突然デスクの上に置いてあったスマホが鳴った。集中していた私は着信音にビクッとする。そして、営業関係の取引先からのメールかと思って中身を確認する。

 しかし、いつもの迷惑メールだった。

 ”あのアイドルが脱いだ!!、最新のセクシーショットをあなただけに”

 そしてありがちな煽り文句と登録フォームが書かれている。例によってサイト名は『ヤリヤリナイトフィーバー』だ。あんまりにもひねりのない名前、私は無視してデリートしようとして指が止まる。 

 最後の最後に添付している写真には水着の二人の女の子の下半身が写っていた。右側の、一番小柄な女の子。その股間近くにホクロがあった。

 もちろんいちごのはずがないのだが、なんとなく気になった。明日二人に確認してみよう。だが、そんなことをすればせっかく今まで作ってきた信頼関係が崩れてしまわないだろうか。私がこんなサイトを見ていると誤解されないだろうか。

 まぁ、二人とも子供ながらきちんと物事を理解している。間違いなどあるはずないし、誰よりも二人のプロデューサーである私が信頼しなければ。特に今日は二人に恥ずかしい目にあってもらいながらも、潔白を証明してもらったばかりだというのに、私は何を疑っているのだろうか。ふと思い浮かんが不吉な予感を私は振り払う。
 たぶん、疲れているからこんなことを考えるのだ。さぁ、帰って妻の里英の作った手料理を食べよう。娘の真(まこと)の顔を見れば全て気にならなくなるはずだ。

[凪沙みかん]
<<????????>>

[岩亀征夫]

 最近、あの迷惑メールが最近来ない。あれからわずかずつではあるがさらに『ふるーつじゅーす』の二人は最近さらに露出が増えた気がする。気にはなっているものの、彼女たちへの依頼は日に日に増えてきて、メジャーデビューやライブの準備などどんどん忙しくなってきている。特に最近『ふるーつじゅーす』と地元の大手製菓企業の中出製菓とのコラボCMの話が出てきている。夏の間アイスキャンディーの新味のCMを月替わりで半年間6本取り続けるというかなり大きく手安定した話だ。

 そして今日はその『ふるーつじゅーす』初のコラボCMの撮影部日。地元の製菓メーカーと組んでローカルCMを撮影することになっている。

 兄貴がもってきた案件にしてはマシな部類だから引き受けることにした。そして依頼案件は最近増え続けていて、彼女たちの仕事は増え続けているのに最近兄貴はセクハラまがいの案件ばかり持ってきてユニットのブランド価値を下げるようなことばかりしてくる。やっぱりあの無能なクソ兄貴に営業やマーケティングを理解するなんて不可能だと確信させられた。

 そのなかでこの案件の『ふるーつじゅーす』とフルーツアイスのコラボ企画』はぎりぎり許容範囲内だったのだ。いちおう企画概要では部屋着でアイスを舐めるだけとされている。

 当日、CM制作担当と打ち合わせして現場入りする。セットは普通に女の子らしいピンク色の部屋にピンク色のベッド。ぬいぐるみやクッションがたくさん置かれている。そしてそのパステルカラーのフェミニンの部屋に似合わない男が立っていた。

 青色のツナギをきて無精髭を生やした肥満体の不潔そうな男だった。正直塩豚の兄貴を連想させる下品な感じだ。男がダミ声で話かけてくる。

「ふるーつじゅーすのプロデューサーさん?今日はよろしくお願いしますわ。わしは今回のCMのアイス作ってる中出製菓の木藻杉尾(きも すぎお)ってもんや。今日はよろしくな」

 馴れ馴れしくバシバシ俺の方を叩きながら押し付けるように名刺を出してくる。正直嫌な予感がしながらもその男と一緒に打ち合わせ室に行く。

 打ち合わせ室で事前に聞かされていたとおり彼女たちのデビューソングをバックに部屋着の『ふるーつじゅーす』の二人がアイスを食べるというCMのプロットを確認する。コンセプトは『アイドルの日常』ということになっている。ちょうど来週のイベントで最初のCDの全国販売が告知されるのでローカルCMとはいえ、ネットに上がればCDの数字を押し上げるバックアップにつながるだろう。

 地下アイドルだった彼女たちの全国デビューだ。私も唯の追っかけファンから彼女たちをプロデュースする側になり、なかなか感慨深いものがある。

 そう撮影セットを見ながら感慨にふけっているとちょうど二人が入ってくる。けれども二人の衣装は事前に聞かされていたものとは大きく異なるものだった。

 打ち合わせの段階ではそれぞれラフな部屋着というふうに写真付きでさほど露出の多くない衣装が提示されていたのだが、いま三人が来ているのはそれとはかけ離れたものだった。三人おそろいのピンクのフリフリがついたベビードールだ。こんなほとんど下着姿での撮影には当然応じられるはずがない。

 そして三人に付き添うように木藻社長が舐め回すように三人を見ながら一緒に歩いている。

「当社のアイスキャンディーは固めに作ることで舐め回しながら深い味わいを楽しめるんや。ぜひとも三人にはその美味しさを表現してもらいたいんやな」

「へー、そうなんですかー」

 みかんちゃんが愛想笑いのご機嫌取りの相槌を打つ。

 私は聞いていた話と違ったことと、木藻社長の不躾な視線が気になったので少女たちと木藻社長の間に割って入る。

「すみません、木藻社長。衣装が次前の打ち合わせと全く違うと思うのですが、これはどういうことですか!」

 わざと声を荒げて木藻社長に言う。けれども、木藻社長はこんなふうに言われると思っていなかったとでも言うふうに私をまじまじと見て言う。

「今回のCMのコンセプトは『アイドルの日常やろ』。やからより日常らしくしてもらったんや。誰だって部屋ん中では下着やろ。わしなんて一年中パン一やし」

 ガッハッハハと笑う木藻社長。

「普通女性は部屋でも下着になりませんし、フルーツジュースは清楚系で売っているんです。こういった服装はアイドルのブランドイメージを損ないます」

「あんちゃんも、そんな固いこと言わんでええがな。女の子はちょっとくらいエロいほうが人気出るやん。これから夏やし。

 それに、言うほど露出していないがな。別にすけてるわけでもないし。せやからこれくらいええやろ」

 確かにベビードールといっても三人の着ているものは生地が比較的厚く、どちらかといえば丈の短いネグリジェといった感じに見えないこともない。けれども、それは十分ないいわけではない。彼女たちをグラビアアイドルのようなセクシー路線で取り扱うのは許容できない。

「だめです。もともと決まっていた衣装がダメなのでしたら、今回の企画はなしということになりますがよろしいでしょうか?」

「あんちゃん、それはキツイよ。わしの会社の夏の新商品やからもう時間もあんまないんや」

「でも元通りの服装ということでよろしいですね」

「しゃーなしやな…」

 木藻社長はうなだれるようになった。

 それ以降のCMの撮影は比較的平穏に企画書通りに進んでいった。ただ一箇所、木藻社長が暴走した部分を除いては。

 CM撮影とは言ってもBGMやアイス本体はあとの編集で入れることになっているので彼女たちにはアイスの形をしたプラスチックの棒状のおもちゃ(消毒済み)を咥えてもらっている。

 「いちごちゃん、もう少し下を絡めてくれへんか。舐めれば舐めるほど味が出る。それがうちの売りなんやから。CMの仲で中がアイスを舐めている躍動感がほしいんや」

 一生懸命舌を伸ばすふるーつじゅーすの三人。けれども木藻社長の注文は明らかに普通のアイスを食べるレベルを超えて舌を絡ませるように要求していた。

「木藻社長、もう三回も撮り直しましたし、社長の注文は明らかに普通にアイスを食べる動作を逸脱しています。これ以上うちの事務所のアイドルたちに強要するようしないでください」

 しぶしぶといった様子で木藻社長はこちらを一睨みしてうなずいてから携帯を手にして出ていった。

 CMの撮影スタジオから事務所に帰るバンの中でみかんちゃんが言う。

「プロデューサーさん、ありがとうございます。社長さん強引でちょっと困っていたんです」

「いいよ、君たちを守るのもプロデューサーの仕事だからね。今後も問題があったら遠慮なく言ってよ」

 そのみかんちゃんの良い笑顔は今日一番だった。そのとなりで普段から素直じゃないいちごちゃんが、

「あんたにしては良い仕事するじゃん」
 とぼそっという。やっと心を開いてくれつつある彼女の発言に感動して俺の役割は今後も彼女たちを安全にプロデュースしてくことだと心に深く刻み込もうと思った。

[凪沙みかん]
<<??裏??>>

[岩亀征夫]

 深夜残業中の私の携帯にいつものスパムメールが届く。今日のタイトルは『私達中出しが大好きです』だった、ベビードールを着た女性の下半身が写されている。今日のCM撮影の事を思い出して私はまゆを不染めてそのスパムメールを削除した。

 彼女たちはアイドルといってもまだ子供だ。私が守ってやらなければ簡単に悪い人間に騙されてひどい目にあってしまうだろう。たとえば、そうあの木藻社長のようなクズにだ。

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