朝が来た。目覚ましが鳴っている。今までの人生でここにくるまで一度だって目覚ましになんて頼ることはなかったのに。ここ最近目覚まし無しでボクは起きられなくなってしまっている。気だるげな朝、全身が汗とザーメンで濡れている。何かがおかしい、ボクは悩む。けれども何がおかしいのか考えてもよくわからない。シャワーを浴びて、真っ赤なレースのマイクロミニのブラをボクの大きな胸にかける。ショーツも対になったTバックだ。
悩んだ結果ボクはメッセージを送ることにした。事前に調べたとおり裏口から密かに朝の校舎に入る。既にホームルームの時間の直前だから生徒たちは昇降口の方に群がっている。ボクが目指すのは普通の教室がある棟とは別の建物だから目立たないように、迅速に目指す。あっけないほど簡単に情報処理室につく。特別パスワードなどもかかっていないようだ。携帯電話や個人のノートパソコンのインターネット接続は監視されているかもしれないが、彼ら自身のネットワークなら監視されていないのではないかとボクは思ったのだ。
美園や野島さんに相談したほうが良かったかもしれない。けれどもボクの勘が嫌な予感を訴えるのだ。なんとなく自分のカラフルでセクシーな下着入れを見ているような違和感、それが二人にもある。だからボクはとりあえず一人で連絡だけでも取ることにしたのだ。情報処理室の教卓の教員用のパソコンが一つつけっぱなしになっているのがみえる。いそいでボクはそのパソコンに向かう。オーダー・セイバーの窓口にコードネーム付きで緊急の連絡を送る。緊急でデータを直接渡すから学園になにか理由をつけて保護者として迎えに来て欲しいといった内容だ。
この学園はまともではないとはいえ、一応教育施設を名乗っている以上保護者が来校することは可能なはずだ。そこで直接会うことが可能だとボクは考えたのだ。
二限目の途中、ボクは応接室に呼び出される。セイバー・グリーンで姫崎美園の許婚の北条弘樹と美園の母親でオーダー・セイバーの司令の姫崎静子がダークグレーのスーツを保護者らしくかっちりときて応接室で待っていた。いつもどおり長くて艶やかな黒髪を後ろのほうで上品に結いあげて、大人っぽい泣きぼくろの上の瞳は少し心配そうにボクを見ている。スーツの上からでも分かるグラマラスな体をボクはいつもすこしだけ羨ましく思っていた。けど、よく考えればボクの胸も負けず劣らずなはずなのに、なんでそんなことを思い出しているんだろうか?
ボクは静子司令の優しそうな、それでいて意思をたたえた眼差しを見て不覚にもすこしだけ安堵を感じていた。オーダー・セイバーになると決めて初めて出会った時からボクを実の娘の美園と同じく優しく、それでいて厳しい大人として接してくれていた静子司令。どんなに厳しい状況でも大人の余裕を失わず、的確にボク達を導いてくれていた。だから、ボクの身近で何でも相談できて信頼できる大人として、ボクは今までも司令の采配を信じてきたし、今だって信じている。
静子司令はボクの保護者として状況を確認しに来たということになっているらしい。すこししたら学園長がくるからそれまで待つように言われて応接室が三人だけになる。まっていた瞬間だ。
「さて、まずは例のものだしてください、弘樹さん」
そう姫崎司令がいつものように静かに言う。その心地良い声がボクを安心させる。
「腕を出して、ジョーカーの洗脳ナノマシンに対するワクチンだよ。芹沢家の人たちの体から発見された敵の洗脳ナノマシンに対する対策だよ」
ボクはおとなしく腕を出す。しゅっという音とともに若干チクっとする。
「いろいろ大変なことになっていますね。まず、本部の方には連絡は『問題ありません』としか野島エージェントからは来ていません。期待していたような十分なデータの収集ができていない点から野島エージェントは洗脳されているのではないかという疑惑が出ていました。しかし、こちらから動くのには十分な根拠がありませんでした。今朝の夏織さんのメールが助けになったんですよ。ありがとうございます、夏織さん」
そういって姫崎司令が軽く微笑む。
「これ、データです」
ボクはいままで集めてきた情報を記録したチップを静子司令に手渡す。なんとか使命を果たせているという実感にボクは少しだけ安堵した。けれども、それが間違いだったのだ。なんだか、安心したせいか急に眠くなってくる。目の前で姫崎司令が立っているのにボクはふらふらして、後ずさるように応接室のふかふかのソファーに座り込んでしまった。視界の端で北条君もソファーに倒れこんで寝ているのが見える。
突然姫崎司令がボクの肩を掴んでゆすり始める。
「おかしいわ、起きなさい。この部屋を出ないと…」
そうなのかも、確かに変に眠いし…。我慢しないと…そう思ったところで姫崎司令がボクに向かって倒れこんでくる。
数分後、ガスマスクをした下っ端怪人たちが応接室に侵入してくる。催眠ガスが応接室にいつの間にか充満しており、それを吸ったために三人は倒れるようにねむってしまったのだ。丁重にソファーの上に重なるように眠っている三人の体を担架のようなものにのせて運び出す。彼らが運ばれていった先は学園の地下のドクター・ゲスオのラボだった。
ラボの中には既に塩豚がドクター・ゲスオとともに運び込まれた昏睡状態の三人を検分する。もちろん北条弘樹に塩豚が興味をもつはずもなく、主要な関心事は姫崎静子司令になる。女子校生の母親だけあって成熟した体、優しい中にも威厳のある顔立ち、泣きぼくろが人妻の色気を放っている。年齢の割には驚くほど肌が綺麗で皺やたるみなど見当たらない。グレーのビジネススーツを押し上げるロケット型のオッパイをやわやわ塩豚は揉んでいる。塩豚が乱暴に揉みしだくたびに高級なシャツやジャケットに新たな皺ができる。
そこでドクター・ゲスオが声をあげる。
「これは少々まずいことになったぞい、塩豚」
「おう、どうした、ドクター」
特に動じることもなくマヌケに聞きかえす塩豚。
「奴ら、ワシの洗脳ナノマシンを破壊するナノマシンを注入しおった。これじゃぁセイバー・レッドの再洗脳は難しいかもしれんのぉ。すでにいままで施してきた洗脳が解除されてきてしまっておる。新しい種類のナノマシンを使うにしても既にここまで複雑に脳を弄くってしまっておると危険じゃのぅ。
塩豚よ、そっちの御婦人とセイバー・レッドを交換じゃ。そっちの御婦人にはナノマシンを使っている場合は使えない最新の洗脳電波を味わってもらうとしようかのう」
「んー、俺はこんな熟女趣味じゃないんだが」
不満そうに言う塩豚。
「そうかのぉ?味わってみれば新しい世界が見えるかもしれんぞぃ」
有無をいわさずにそう言うドクター・ゲスオに塩豚が反論できるはずがない。畳み掛けるようにドクター・ゲスオが言う。
「敵も流石に学習してくるのぅ。この三人の処置じゃが、3日ほど昼夜を問わず集中して行うことになるじゃろう。その間におそらく敵の攻撃もあるじゃろう。お前さん達はその準備をするんじゃな」
「しかたないなぁ」
不満気に塩豚が言う。
「まぁ、この戦いに勝てばまたお主の好き放題生活がまってるぞぃ。じゃから、ホレホレ、やる気を出すんじゃぞ」
「ん、やる気が出てきたのか?」
血色の悪い塩豚の顔に赤みがさす。
「ほれ、もっともっとやる気を出すんじゃぞ。お主はちょいとオーダー・セイバーと一戦交えたい気分じゃ」
「あれ、なんだか戦いたくなってきた。ジジイ、俺準備してくるわ」
そういうが早いかドクター・ゲスオにのせられた塩豚はラボを後にしてどこかに行ってしまった。のこされたドクター・ゲスオは誰にともなく叫ぶ。
「フォッフォッフォッフォッ!!!ワシはヌシらのような気高い魂が好きじゃぞい。それがどこまでもつか実験じゃぁ、セイバー・レッド!おヌシはどこまで耐えられるかのぉ、楽しみじゃわい。さぁ、次に目覚めるときはお主の体はお主のものではないぞい。魂だけでどこまで戦えるものかのぅ、フォッフォッフォッフォッ」
無人のラボに老人の狂気に満ちた笑い声が響き渡る。
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