[ジャンヌ・アルトリカ視点]
一千の騎兵たちが私とともに山を駆る。戦うためではない。駆逐するためだ。村人たちの平穏を脅かし女を犯す憎むべきケダモノ、オーク達を一匹残らず狩り取るために。オーク達の巣が見つかる。緑色のぶよぶよした体のその生物が訳も分からず襲い掛かってくる。
私が剣をふるう。そのたびに敵の首が飛ぶ。オークだけではない。すべての私の敵たちはこうして薙ぎ払われてきたのだ。私はもともと辺境伯ジャンヌ・アルトリカ。祖父の代までは代々王国守護騎士の一門にして最も高貴な血筋の恥だった。
しかし、私にその輝かしい歴史の記憶はない。隣国の女にたぶらかされた父は母を売り、祖国を売り、そして辺境へ飛ばされた。私が最初に殺したのは、一門の誇りをけがした父の愛人だった。そして次に父の首が宙を舞った。そう、いまここでバタバタと哀れにも皆殺しにされるオーク達のように。そうして、次に殺したのは敵国の兵士たちだった。私が殺せば殺すほど、家の名はあがり、そして王国守護騎士の名誉を恢復されるまでになった。
さぁ、今日の敵は強くはない。殺し、殺し、殲滅しよう。私は知らず口角が上がるのを感じた。けれども高揚感が最高潮に達するよりも早くオークが足りなくなった。
「おい、馬を降りてあばら家の中も探せ。絶対にまだ隠れているオークがいるからな!」
部下たちに命令する。
私自身馬を降りて指揮する。くさいオークの巣の中だ。さっさと焼き払ってしまいたい。王国に救う害虫どもが。
よくみると私のすぐ隣の建物の壁際に一匹のオークがうずくまっていた。それで隠れているつもりなのだろうか。低能なオークらしい。ただ、他のオークどもの死骸に埋もれていただけだというのに。
一瞬目があう。即座に殺すのもよかった。しかし、私はこの愚かな羽虫のようなオークを部下たちの前でもてあそんで見せることにした。こんな害虫駆除ではさほどの褒章も出ないし、多少の娯楽はないとな。そして軍人どもには下劣なくらいがちょうどいい。そして私は部下たちに集合をかける。子飼いの騎士たちがすぐに集まる。
「おい、一度集合しろ!バカなオークがいたぞ!」
そしてそのオークに呼び掛けた。平均よりも小柄なやつだ。みじめにぶるぶる震えている。
「バカなやつだな、まだ残ってたのか。武器ももたずに小便垂らして。オークのくせに筋肉もないし、小便たらしのお前みたいなのは放っておいても野垂れ死にそうだな。クックック」
あざ笑ってやる。オークどもの強みは人間よりも大きな肉体と強靭な生命力にあるが、こいつにはそのどちらも微塵もみられない。懇願するように間抜けに私たちを見上げている。そいつにさらなる絶望を与えるために私は目の前に転がっていたオークの頭を踏みつけた。鉄の鐙で踏みつけられて、腐った果実のようにつぶれて王家に賜った銀の鎧が汚れてしまう。その汚れた鎧を見てオークにどれほどのことができるか試してみようと私は戯れに思った。
「おい、そこのおまえ。この汚れをその汚らわしい腰布で拭いて磨き上げろ。そしたら命は助けてやる」
そいつは自分に言われたのだろ理解できず、きょろきょろあたりを愚かにも見渡した。愚図で愚鈍なオークにも理解できるように私は剣の鞘で思いっきりたたく。部下たちから嘲笑の笑いが漏れる。本当は汚らしいオークの腰布などで拭かれたくはなかった。けれども部下どもにはこの余興はウケたようだった。
ぼろんとオークの一物がさらされる。私はそれを見て怒りがこみ上げてくるのを感じた。すべての男どもは私にとって憎しみの対象だ。なぜなら母を売り、国を売ったあの売国奴の父を思い出させるから。
憎しみを言葉によって吐き出すように私は言葉を続ける。
「ほんとにオークってやつは薄のろで奴隷としても使えない奴らだな。殺したら殺したで鎧が汚れてしまうし、ゴキブリ以下の害虫どもだ」
ぴかぴかとはいかないがあらかた汚れは取れたようだった。この程度のことができるなら、こいつらは奴隷としてなら王国の役に立つのではないかと私はふと思った。アエギア陛下に折を見て献策してみよう。
磨き終わってまだのろのろしているバカなオークを蹴り飛ばす。もうコレに興味はない。こいつがこの巣の最後の生き残りだろう。バカなやつだ。
「撤収する!火を放て!いそぎ、次の巣を殲滅しに行くぞ!」
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