寝取られた彼女➖風紀委員長三倉圭織➖4:オレたちのお姫様は一生懸命彼氏とラブラブを演じてるぜ

[佐藤圭吾]

 一時期心配だったが、最近カオリも回復してきたみたいだ。五月病ってやつかもしれない。

 一時期と比べると顔色も見違えるようによくなって、メールの返信も早くなった。何より、俺がちょっと困ってしまうぐらい最近積極的だ。

「はい、あーん」

 そう眼鏡の奥からカオリがスプーンですくったアイスを差し出してくる。予備校帰りのファミレス、宿題の見直しを二人でしながら、もう何度もこうしてアイスを差し出してくれる。いままで奥手で、こういうことに厳しい目を向けていた風紀委員長だけになんだか不思議というか、ちょっと怖い気すらする。もちろん、俺は彼女のカレシなわけだから。なにも不思議なことはないし、むしろ俺としてはとてもうれしいんだが、無理をしているんじゃないかと思ってしまう。

「カオリさぁ、何か最近あった?」

「別に…。なによ?なんか疑ってるの?

まぁ、私のキャラじゃないわよね」

俺の腹の中を探るような圭織のジト目。でもそれさえもとてもかわいい。

「いや!いや!そんなわけないから。むしろうれしすぎてなんかあるんじゃないかって思っちゃうくらいで」

舞い上がりながら即答する。

「ふーん」

じろじろと俺のことを見つめる委員長モードのカオリ。それが一転、笑顔に代わる。

「ま、いっか。ほら、アイス溶けちゃうわよ」

そういって自分のスプーンを俺に差し出す。カオリとの間接キスに胸を躍らせながら、俺はそれを口にする。そういえばカオリと付き合い始めてからまだ、キスすらすましていないんだよな。きっとこの分だと、そう遠くない未来に、たぶん中間テストの後ぐらいに行けるんじゃないかな。いつか、提案してみよう。

 そう思いながら俺は彼女のスプーン越しにアイスを食べて、胸が熱くなるのを感じる。手元にはこの前初めてカオリからもらったストラップが筆箱の中に見えている。

6月2日

[三倉圭織]

 はぁ、っとため息をつきながらここ数日の自分の行動を思い返す。なんだか、青春ドラマみたいにケイ君とカップルしている自分がいる。昨日なんか、なんども自分のスプーンでアイスを彼の口に差し出してしまった。さすがにやりすぎたのかケイ君も怪しんでいるそぶりを見せていた。

 無理もない。ひと月前の私なら、そんな不潔なことは許容できなかったのだから。でも、あれ以来、私の体がなんだかとても汚れてしまった気がして、ケイ君に多少間接キスをするくらいなんでもなくなっている。なにより、ケイ君のことを考えるととても重い罪悪感を感じてしまうのだ。それこそ、間接キスなんて罪滅ぼしにもならないほど。

 すべての元凶、岸和田君の机を見る。今日は珍しく学校にきている。いつの間にか彼の出欠を気にしている私がいた。あの日、岸和田君の部屋で抱かれた日から二週間以上が経っている。実を言えば、最近再び軽い頭痛がし始めていた。日常生活は一番禁断症状がきつかった時と比べればまだ輝いていて、ケイ君といても楽しいけど、でもそれが時間の問題だということも分かっている。

 そして岸和田君を見ると思い出してしまう。2週間前のあの日のことを。最初の時はそんなことはなかった。強い麻薬で酩酊状態のままレイプされて、その時の記憶はほとんど思い出せない。ただおぼろげに気持ちよかったとしか思い出せない。それなのに、先々週のことは私の記憶に張り付いたままだ。岸和田君の言った通り、量が少なかったからなのか、鮮明に思い出せてしまう。あの、快感。岸和田君のペニスが私の中に容赦なく侵入し、彼に組み伏せられるようにベッドの上で幾度も絶頂をむさぼってしまったこと。彼の吐き出した熱い精子が私の体に刻まれたこと。そして普段怖そうな不良が絶頂の快感にかわいらしいような表情で唇を吸ったこと。全部、まだ風化する兆しすらなく思い出せる。

 そして何より。それが私のことを苦しめる。あの後、ことが終わった後で岸和田君は予備校に間に合うように私を解放した。その時に紙袋を押し付けられたのだが、その中にアフターピルとピンクローターが入っていた。麻薬のせいで尋常ではない快感を知ってしまった私は簡単に指で刺激するだけのオナニーではすでに満足できなくなってしまっていた。そのことさえ見透かされていたのだ。

 初めの数日ほどは抵抗していたが、結局快感に対する欲求と物珍しさからローターを使ってしまう。彼氏ではない男に与えられた性具を日常的に使ってしまう。以前はオナニーしながらいつかするだろうケイ君との秘め事を想像していた。いまでも、そうだ。けれども、あの下半身から湧き上がる快感はいいようもなく岸和田君との情事を思い出させて、最終的にどっちの男性に抱かれているのか妄想の中で判別すらできなくなってしまう。

 その自分の不貞に対する心苦しさから、最近いつも自慰の後はケイ君に愛を確かめるような熱いメールを送ってしまう。自分の愚かさにどこかで冷めたように感じながらむなしいメールを送信する。するといつでもケイ君は大まじめに熱い思いを返してくれてますます私はつらくなってしまう。彼の愛に満ちたメールがまるで私の心の裏側を攻めているような気がしてしまうのだ。

 昼休み、岸和田君が席を立ってどこかに向かう。たぶん、校舎裏で不良たちとタバコを吸うのだろう。

 少ししてから私は校舎裏に向かう。不良を注意するという風紀委員長としてのお題目のもとに岸和田君を責めるために。でも、心のどこかで最近再び起こり始めた頭痛のことも考えてしまう。

 カビが生えそうな湿っぽい体育館裏の一角。薄暗く死角になりやすいその場所は、普段から不良のたまり場だった。そこに私が足を踏み入れる。

 岸和田君を中心に、2,3人の不良たちがたむろしながら紫煙をくゆらせていた。

「こら、あなたたち、またこそこそタバコなんて吸って。校則違反よ。また先生に言いつけられたいの?」

ニヤニヤしながら岸和田君が言ってくる。

「うっせーぞ、いいんちょうがぁ。お前がうっさいのはチンポの上だけで十分じゃねーか」

不良たちがどっと笑う。すでにことの顛末は不良の間で広まってしまっているのだろうか。私はイラッとして、近くにいた不良んも一人が手に持っていたタバコの箱を取り上げた。

「これは、没収よ。いい、私はあんたたちの健康のことを考えて注意してあげてるのよ。感謝されこそすれ、キレるなんてお門違いよ!」

タバコを没収された不良がつかみかかってくる。それを岸和田君が制止する。

「まー、オレら誰にも迷惑かけてねーし、いいじゃねーか。な、圭織」

馴れ馴れしく私の肩に手をかけてくる岸和田君。あの、甘ったるいクスリの匂いがふわりと私の鼻につく。

「そういう問題じゃないわ。

それに学校サボりすぎよ。三年生なんだからきちんと来なさいよ」

岸和田君の手を払いのけて言う。少し背の高い彼が私の顔を除き組むようにして言う。なんだかこういう風に顔を正面に持ってこられるとまるで2週間前のアレみたいで違和感がある。

「まぁ、オレがいねーとヤクがもらえないからな。そうだろ?」

「違っ、そんなわけないじゃない!」

心外なことを言われて、私は慌てて否定する。

「あれ以来、圭織はあのひょろい彼氏とラブラブらしいじゃん。また、ヤク切れで彼氏を心配させんのか、あぁん?」

ピシャンッ、思わず私の手が出て、岸和田君の頬をはる。そして呆然としている不良たちを後に私はその場を後にする。

「とにかく、タバコはもう止めなさいよ」

私の後ろで頬をはられたはずの岸和田君がにやにや笑っていたのにも気づかずに。

6月6日

 結果としてあの時岸和田君の言ったことは現実なりかけていた。頭が痛い、ますますあの日のことが鮮明に思い出され、対照的に日常が色あせて見える。自慰もどこかむなしく、浅くしかイケない日々が続いていた。

 一方、岸和田君は遅刻や早退はするものの私が注意して以来欠席はしていない。私はほぼ毎日のように、岸和田君を注意していた。あの、甘い匂いをますます強く漂わせる彼を廊下や教室で𠮟責していた。ただし、あれ以来体育館裏の不良たちのたまり場には近づかないようにしていた。

 お昼休み。ケイ君といつものように屋上で昼食を一緒に食べていた。今週になってから始めた習慣だ。我ながら恥ずかしすぎる。それでもすこしでもケイ君との愛を確かめ続けなければ怖かった。彼と会うことで頭痛を少しでも忘れようとした。けれども、そんな日々もどこか無味乾燥に感じられて耐えられなくなりつつあった。

「そういえば、さっき岸和田からこれを委員長にって渡されたんだけど。なんか呼び出し文みたいだけど、大丈夫?」

 そういってくちゃくちゃに丸められた小テストの裏紙をケイ君が私に渡してくる。しわくちゃなそれを開くと、雑な字で『放課後、体育館裏』と書かれている。

「どうってことないわ。気にしないで。

そういえば、今日はケイ君のすきなハンバーグが私のお弁当に入っているわ。はい、あーん」

 頻度が再び上がってきた禁断症状の軽い頭痛を抑えて、無理やり強引に話を変える。ケイ君といる時ぐらい、あの男の影を忘れていたいのだから。

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